パフォーマンスの保存と表現
パフォーマンスアートの原点
パフォーマンスアートは、瞬間だ。それは、あまりにも寿命の短い生き物のように、瞬間の感動を生み出し、記憶には残るが作品自体が遺ることは難しい。
パフォーマンスアートは一種の生の瞬間を形取るものだろう。寺岡香織は、その記録や保存を探究することを発端として現在の平面作品を作り始めた。瞬間を身体を通して形取る。それは、感受し表現する時間を一つの枠の中に収めるようなものだ。彼女の作品には、そのような「身体性」や「時間」といった「生のかたち」が表出しているようである。
パフォーマンスの保存と表現
寺岡香織の平面表現で目に留まるものは、色彩構成とモチーフとなる5本の線だろう。5本の線は瞬間を表し、1 秒 1 秒、寺岡の身体を通して平面上に記録されていく。この形である意味は、線という以上の意味を持たず、瞬間を形取るという意義を最も表すと感じるからと言った。色彩は、彼女の感性に依拠している。1 秒ごとに描かれる線。さまざまな瞬間が色彩となって折り重なり、絵画となる。
寺岡によれば、「映像で記録することは簡単だが、それだとあまり意味がない」とのことだ。確かに、映像では、自己と表現は保存されても、その表現を記録する主体は自己から離れたものに委ねられる。映像による記録は、事実として保存はできるが、アートにおいて重要なパーソナリティや感性は保存されない。彼女の作品はその点において革新的な表現をしていると言える。
また、「身体」を通した表現に起源があるという点も、寺岡の作品を見る上で大切なポイントだろう。私たちに流れる血潮、時間、触れる空気や温度。私たちは図らずともさまざまなものを「視ている」。それは、目を通してだけではなく、身体を通して感じているのだ。彼女は、「色はその時々で決めている。感性に委ねている」と語る。それは、身体を通して見た景色が、感覚的に画面に投影されていると言えるのではないだろうか。
寺岡香織の用いるマテルアルや表現技法も注目する要素だ。まず、マテリアルが和紙なのは、「保存」という文脈から来ている。源氏物語絵巻や大和絵に始まる日本画。和紙を使った絵画は、1000 年たった現在でも色褪せることなく、私たちに感動を与える。このように、和紙というマテリアルは、絵画表現で長く保存の効く素材なのである。
さらに、日本画表現を用いる理由。それは、身体的感受、人間の色彩に適切な色だからだ。アクリル絵具のゴムっぽい人工的な質感は、身体を通した保存というよりも、非人間的なものや人工的な表現に適していると思えると語る。対して、日本画の顔料から生まれる発色はどこか淡く、非常に私たちと私たちを取り巻く環境を表しているように思える。
最後に考察として、日本画の古典技法では、下書きもせず瞬間的に描く。彼女の表現には、無意識にかもしれないがその性質を現代と自分に合わせて表現しているように思える。
寺岡 香織
略歴
1995 静岡県生まれ
2019 武蔵野美術大学造形学部空間演出デザイン学科ファッションコース卒業
2020 「O+ 展」グループ展 ( 新生堂 ) ( 以降 '21)
2021 東京芸術大学美術研究科デザイン専攻 修了
2021 描画図鑑 / 佐藤美術館 ( 以降~'23)
2022 翔ぶ鳥展 / 銀座一穂堂 ( 以降~'24)