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池田晃将

池田晃将の螺鈿

2021年7月9日〜7月17日

Exhibition

展示風景

長期にわたり日本の装飾はしっとりとした季節の趣や、詩、歌を通した情景を意匠としてきました。
私が描くのは、それだけでは表しきれないこの時代の膨大な情報と共有されたイメージです。
遺された技術や美意識を繋ぎ、不変の美しさを作ることはとても困難ですが、
「今」を映し出すことが系譜を継ぐことと信じています。
今まさに困難な時世ではありますが、ご無理のなきよう高覧いただければ幸いです。
重ねてこのさなかに展覧会に携わっていただいた皆様に感謝申し上げご挨拶とさせていただきます。

令和三年七月
池田 晃将

100メートルを9秒台で走る短距離ランナーのように、池田晃将は常に自分の記録に挑戦し、極小の螺鈿を創造する。
デジタル、画素、マトリックス、集積回路……少し前まで聞き慣れなかった単語を、日本の伝統技術を継承しつつ 螺鈿で表現する彼の脳の回路は 七色の貝のように輝いているに違いない。
螺鈿は9世紀 海を渡ってやって来た。
夜光貝や黒蝶貝などを原料とし 漆黒の漆の表面に加飾した美術工芸で その美しさと稀少な品ゆえに権力者が好み 正倉院の御物として、ヨーロッパの王族までもが珍重し、1000年以上経った今も美術工芸品として残っている。
では、現在の時の権力者は? と考えると、今、世界で最も力を持つのは情報でしょうか。
池田晃将は アニメやサブカルチャーの時代を生きて来た。
学生時代、金沢21世紀美術館で催された「工芸未来派」を見て 日本の伝統工芸に新しい風を感じた。
彼は 今の時代を象徴するものとして、コンピューターをはじめ 最新の科学技術を取り入れデザインし 技を磨き 電光のように輝く貝で 極小の螺鈿工芸に挑む。
「今の時代に自分にしか作れないモノを造る。誰も見たことがないものを創る。」と言う。
2020年、世界を襲ったパンデミック。それでも若者たちは懸命に生きている。
池田晃将はその一人として日本の伝統工芸を継承する。もう心配はいらない。
彼の目指す未来をずっと見ていたいものである。 

一穂堂 青野 惠子

著名人からのコメント

虚実皮膜の上に浮かぶ光

 抽象彫刻にも似た筥を覆う漆黒の皮膜は、鏡のように世界を反射して虚の界面をかたちづくる。
その表層に、貝片が発する干渉色の光が、精緻な数字や線の集積を浮かび上がらせる。ともすれば虚空へ漂い出そうとするイメージを、その際で物象につなぎ止め、「ないのに、ある」存在として成立させるのが、螺鈿の魅力かもしれない。
 起源を中国に持ち、日本で豊かに花ひらいた漆芸の中でも特に華やかな螺鈿の技法は、伝統、古典、権威、技巧、洗練、といったイメージをまとう。
 ところが池田晃将の螺鈿作品は、素材や技法は揺るぎない伝統に根ざす一方、意匠は極めて現代的、大衆的なゲームやアニメーション、映画など、国を超えて共有されるユースカルチャーを参照している。たとえば漆黒のスクリーン上に明滅するコードの緑色光。あるいは基板の上を走る
導体の配線。
 光や電気信号を操作するテクノロジーや、これらに触発されたSF的なヴィジョンは、物理的に手で触れることの叶わない、いわば「あるのに、ない」ものだ。それが極限の薄膜──まさに虚実皮膜の上に、物象としてつなぎ止められている。そうして合わせ鏡のあいだで乱反射するように交錯する、いくつものずれや矛盾が、池田の作品をいっそう魅力的に見せているのだろう。

公益財団法人永青文庫副館長
橋本 麻里

Terumasa Ikeda

池田晃将

略歴
1987 千葉県出身
2014 金沢美術工芸大学 工芸科 漆・木工コース卒業
2016 金沢美術工芸大学大学院 修士課程 修了
2019 金沢卯辰山工芸工房 修了
現在 金沢市内にて独立 

2023 個展「虚影蜃光 ー Shell of Phantom Light 」(金沢21世紀美術館 デザインギャラリー、石川)
2023 「超絶技巧、未来へ! 明治工芸とそのDNA」(三井記念美術館、東京)
2023 個展「Terumasa Ikeda: Iridescent Lacquer」(Ippodo Gallery New York)
2023 「ポケモン X 工芸展 美とわざの大発見」(国立工芸館、石川)
2022 「ジャンルレス工芸展」(国立工芸館、石川)

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