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千年の美を目指して

箕浦敬子, Keiko Minoura
兄の付き添いで、3 歳の頃より書を書き始める。空間能力や、「書」を書く美しさに天賦の才があった。「書」を書いていく中で、表具に収まる「書」に対して違和感を覚え始める。 「書」のキャリアが 50 年を迎えるころ、升色紙の結界を破る現在の「書」の境地に至る。
かな文字をモチーフに、光を透かし、風を纏った羽衣のような和紙に書く空間的な表現は、唯一無二であり、書き出された「かな文字」は千年の息吹を吹き返し、新しい「書」の地平を作りだすかのようである。

 

千年の美を目指して

日本固有の美しさとは、一言には語れない、紡いできた歴史と私たちの遺伝子に組み込まれている美意識が創出するものだろう。それは、用の美や日本画など様々な形で表出されている。箕浦敬子の書く「かな文字」は、そんな、日本固有の美が形となって浮かび上がったものと言える。
箕浦敬子, Keiko Minoura

古くは平安時代に生まれた「かな文字」。箕浦氏は、千年前に藤原行成によって書かれた「升色紙」をモチーフとした作品を作り上げた。藤原行成によって書かれた穏やかで優美な筆致が、千年の時を超えた。長い間紙の中に閉じ込められていた「かな文字」の想いを、箕浦氏は升色紙という結界を破り、和紙の空間に書くことで、時空を凌駕した新しい「書」の物語を作り上げたのである。箕浦氏の作り出す「かな文字」の空間はジョアン・ミロ(1893-1983)を思い起させるものであり、それは、空間だけではなく、過去、現在、未来の時間の往来がある。過去の「書」、箕浦氏の現在の「書」、そして、過去、現在の時間を往復し観察することで感じる未来への想像。出会うことは叶わないが、魂の地平で繋がっている、千年の時を超えた絆といえるものが「書」を通して紡がれる。
箕浦敬子, Keiko Minoura

これは、箕浦氏のモチーフとする「かな文字」の効果も一つに存在する。日本固有の文字で、表意文字の漢字の特性に縛られない「かな文字」を用い、たおやかに表現することで、意味を有しつつも、心情や情景が形となって表出される。即ち、「書」という道具を用いることで、「かな文字」に命が宿り、心象に夢幻の対話と無限の美が創出されるのである。

箕浦氏の表現する「かな文字」は、比田井南谷や上田桑鳩の前衛書道とは異なった、「かな文字」の「書」の新しい地平と言えよう。前衛書道家たちが、「書」のデュシャンとするならば、箕浦氏は「かな文字」の書のラファエロのように、書におけるルネサンス、「かな文字」の美の再興をし、千年先に続く道を作り上げるのではないだろうか。

 

箕浦 敬子

略歴
1972 年 愛知県生まれ
2015 年 個展 可喜庵
2022 年 第 3 回掛け軸と絵画の未来展 三渓園サッシ表紙の墨絵
2023 年 東京国立博物館 応挙館 書道家初展示
2024 年 個展 銀座一穂堂

 

一穂堂 岡村 陽平