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ピンクと鏡

大学4年生、就活が終わり卒業も間近に迫った頃に出会った陶芸が、その後の星野友幸の人生を左右することになる。一般企業に就職後、京都府立陶工高等技術専門校に入学し、本格的に陶芸の道に進み始める。卒業後は、猪飼祐一氏への弟子入りを経て独立。2010年代の半ば頃から、現在の星野友幸のテーマとなるようなピンクの作品を手掛け始める。現在では、オリジナリティの溢れるピンクの世界観が人気を博している。 

 

 

ピンクと鏡

 

手業の作品たちは、その人を映す鏡なのかも知れない。私たちは、鏡を通して初めて自分というものを見つめられる。鏡という対象を通して、私自身を知ることができるのだ。陶芸家星野友幸にとって作品は、内面を表出する上で欠かせない鏡のような存在だ。

私たちは、現実世界に存在する個体の中に様々な側面を有している。経験、環境、アイデンティティ、また先天的なパーソナリティなど、一つの存在の中に、様々な一面を有する多面的な存在だ。その中でも、恥じらいや、照れてしまうような感情は多くの人の中で隠されてしまうことがほとんどだろう。星野の作品のピンク色には、普段表に出せないけれども本質的な部分がポップに、気品のある形となって表現されている。



 

この表現に至ったのは、非常に自然な流れであった。無意識的にピンクという色を選択し作品を作っていった頃から、おそらく星野の中で言葉にならない一面が表になるようになっていたのではないかと思える。

ピンクの作品を作っていく中で、内面性と作品の繋がりの気づきの契機となったのは、猪飼氏の「この仕事をしている限り、性格や人間性は誤魔化せないぞ」という言葉だった。手を通して形になる作品。自分の肉体を通し、人生の時間を掛けて物を作るという行為は、その人そのものを形作るということと言える。星野は制作をしてく中で、作品と色と自分の関係を考えるようになっていった。そして、自分の作品は外的な世界よりも、自身の内的な世界とのつながりが強いと、制作、完成した作品との対話の中で気づくようになっていった。

 

 

工芸の世界では外界の影響を深く受け、特に自然の中にある美を再現することを目標にする作家が多い中で、星野は内的世界の表出に意識が向いていた。それは、星野の作陶を始めるきっかけの、「とにかく何かを作りたかった」という思いが根底にあるのではないかと感じる。物を作るという好奇心が始めに目的であった。そのため、外界の環境というよりも、物自体の対象と、制作をする自己という関係性が明確に浮き彫りになったのではないだろうか。

師匠の言葉、そして、星野が作陶を始めたきっかけ。様々な要因が合わさり、内的世界の表出の結果として、現在のピンクの作品に至ったと言える。

人間には、見せたくない一面がある。恥じらいを持つ一面がある。しかし、その面も一人の自分だ。その自分を作品として表現するということは、とても自分らしく生きるということではないだろうか。気品高い釉薬の風合いには、そんな恥ずかしさを覆う、紅潮した頬を笑顔で誤魔化す照れ隠しのような色味を感じる。 

 

 

星野友幸

1976 
山梨県甲府市生まれ
1999 
横浜市立大学卒業
2005 
京都府立陶工高等技術専門学校 成形科修了 猪飼祐一氏に師事
2007 
東京都国分寺市にて独立
2013 
日本工芸会 正会員認定
第60回日本伝統工芸展 日本工芸会奨励賞
第5回菊池ビエンナーレ 奨励賞
2017
第11回国際陶磁器展美濃 審査員特別賞(選・藤本壮介氏)
2023
陶芸の進行形 菊池寛実記念智美術館

収蔵
菊池コレクション
茨城県陶芸美術館
イセ文化財団
府中市