陶芸家として生きて来た私の体の中のエネルギーには大きく2種ある。
1つは若き日 ニューヨークで発表した世紀末の毒気を持つ造形と もう1つは日本の古典への回帰 静かな茶碗への憧れ、写しの世界である。
これはそのまま 天下を取るために戦う強い武将に対して、生涯を1つの釜と数個の茶碗しか使わず簡素極めた茶人 丿貫(へちかん)との対比でもある。
今回はその丿貫が現代人に向けて物申しているような 地面に杖を突きさす「丿貫の杖」を軸にしてみた。
そして「現代の古典」茶碗を作りつつも、自由な発想の鑑賞を目的とする茶碗を作ろうと思い立った。
鑑賞といえば絵画、日本の絵画といえば琳派、琳派といえば青海波。
自由な発想は順を経て赤楽茶碗にたどり着き、独自技法の開拓を重ね 沢山の失敗茶碗を作リ続けることになる。
今回の赤楽茶碗の鮮やかな赤色は 丿貫が北野茶会でデビューした時、秀吉に見染められたあの大きな赤い野点傘、その赤なのかも知れない。
中村 康平