蓋をあける
染織家・芹沢銈介が松崎融の額を見つけ、自作のガラス絵や型染を入れて一世を風靡してからもう50年が経つ。李朝のようで 根来のようで 古い蔵の中から出て来たような松崎の漆木工は荒々しいのにどこか懐かしく温かい。
その彼は この10月10日 体育の日 喜寿を迎える。みなさまと一緒にお祝いしたいのですが、コロナ禍で自粛することにした。
昨年の秋、魯山人の織部のどら鉢が手に入った。瞬間、松崎融の蓋を付けて水指に……と。
かくして彼はその蓋を作ることになった。
拭漆 朱漆 黒漆の蓋を今までたくさん作ってきた。師・島岡達三、友・辻村史朗、弟・松崎健の水指の蓋も作ってきた。
蓋は「蓋をあける」「火蓋を切る」というように ものごとの始まりに用い 松崎融は 喜寿を期としてさまざまな蓋のついた作品を作りだしている。以前より少し薄い。また 新しい。
彼の創作意欲は 枯れることなく 35年の付き合いを経て 今も私をドキドキさせてくれる。
一穂堂 青野惠子