革という素材を単に 用の美の鞄 にしたとは思えない西田信子の手によるバッグ達。
それらはまるで生き物のよう。
英国ファッションブランド ヴィヴィアン・ウエストウッドを日本に展開するという経歴を持つ彼女が革の鞄を作り出して 20 年になる。
イタリアの熟練職人が化学薬品を一切使わず ミモザや栗などの植物のタンニンで丁寧に鞣した最上級牛革を用い、素材の選定、デザイン、革の裁断から縫製までのすべてをたった一人で完結するスタイルを頑固なまでに貫いている。
世の中がコロナ禍に憂え始めた4年前、彼女は突然『革の積み木』を創り出した。
大小さまざまな色や形、自分の身の丈ほどもある巨大な立方体や円柱まで驚く程の数を造った。
これは紛れもなくアートである。
その発想は、エネルギーは、一体どこから来るのだろう?
白衣を纏い、手縫いを駆使し、ひとり黙々と静かに作業する彼女の姿を‘夕鶴のおつうのよう。’と評した記事を読んだことがある。
代官山のアトリエを訪れる度、イタリアから届いた美しくも夥しい数の革に圧倒される。
普段は閉ざされたアトリエでしか見られない不思議な世界が銀座にやって来る。
無類の着物好きで知られる西田信子のバッグは和装用としても支持されている。
青野恵子