師、井上三綱の作品に「黄鐘調」(国立近代美術館)と云う六曲の屏風作品がある。
初めてこの作品に出会った時の衝撃は今も覚えている、
忘れていた遠い記憶が甦るような感動が湧き上がってきた。
ライフワークの「牛群像」から抽出したフォルムをコラージュした平面作品だが古代中国の銅器を想わせ、その響きが伝わってきた。
絵画がここまで到達することが出来るのか、その具現がそこにあった。
兼好法師の徒然草に「凡そ、鐘の声は黄鐘調なるべし。これ、無常の調子、祇園精舎の無常院の声なり」とあり
母親が低い声で子守唄を歌いながら赤ん坊を寝かしつけるあの音程を黄鐘調と云い
元々は雅楽の六調子のひとつの音程で、色に帰ると我々黄色人種の肌の色で、あまりに身についているので忘れている色
赤ん坊の時聞き知った子守唄も記憶の底に埋もれてしまっている。
生前、三綱が聞かせてくれた話である。
晩鐘の音色が母の子守唄、その声に思いを馳せ古の響きの余韻に浸る。
松原 賢