「もの」と⼈の繋がり
東京芸術⼤学⼯芸科出⾝。⾼校の頃はデザインの分野に進学をしようと考えていたが、恩師の「君は技術を⽤いて後ろから、⽣活を⽀えるタイプ」という⾔葉を受け、⼯芸の道を⽬指す。⼤学時代は、鍛造を学ぶ中で鉄が最も苦⼿であったが、⽯川へ赴いた時、持っていた鉄の錆具合から場所の変化と素材の変化に感動し鍛鉄作家の道を歩み、現在の作⾵へ⾄る。2024年公益財団法⼈ポーラ伝統⽂化振興財団が⾏う、第44回伝統⽂化ポーラ賞で「奨励賞」を受賞。空間に溶け空気感を演出する、美しく軽やかな造形の鍛鉄作品が⼈々を魅了する。
「もの」と⼈の繋がり
⼈が⽣活をする。「もの」が⽣活を⽀える。⼈と「もの」の繋がりと循環の中で私たちは、感性を磨き⽇々の⽣活に⼼を落ち着かせることができる。坂井直樹の作品は、⼈と「もの」の繋がりを⽣み、空間を演出する。 私たちの⾝の回りには、様々な「もの」がある。⽣活をする家も、就寝をする寝具も全て「もの」に⽀えられている。私たちが「もの」を選び⽣活を作り上げると同時に、「もの」が私たちの⽣活を豊かにしていく。
坂坂井先⽣は、そんな「もの」を作る作り⼿でありながら、⼯芸をする意義を⾃分の⾔葉にすることができないもどかしさを感じ、⼯芸のルーツをたどりに⽯川へ赴いた。その時、坂井先⽣の⽬指す⽤の美のあるべき姿と⾔える景⾊を⽬の当たりにした。⽣活に⼯芸が根付き、⽣活を⼟着の美が⽀える。美と住が共に交わっていたのだ。刻々と変化する都市部で⽣活すると忘れてしまいがちな、⽇常と美の饗宴。
⽇本に⽣きる私たちは、四季の移ろいのなかで育まれた独⾃の感性を有している。そんな、⽇本の独⾃の美意識を、鍛鉄作品を⽤いて空間を演出する坂井先⽣の作品は気づかせてくれるようである。 余⽩の多いフォルム、⾃然界で⽣まれるような少し歪な直線。⽇の照る時間に従って、その姿を変える作品の陰影。鍛鉄という技術を⽤いて、美を体現している。
さらに、坂井先⽣の作品は、シンプルだからこそ作品を作り上げた作り⼿だけで完成しない。作者、環境、鑑賞者の対話が⽣まれる。この、三者が⼀体になり初めて坂井直樹の作品は完成する。「もの」を作り上げる作者は、作品を作る上での素材と対話し、完成したのちの姿に想いを巡らせる。その作品が受け取られる環境で、鑑賞者は、作品と環境が美しくなるように⼯夫をする。坂井先⽣の作品は、作品を⾒ることに⽌まらず、観察する視点、鑑賞と観察のインテリジェンスを磨く魅⼒を有している。
「ものづくりは、⼈づくりなんです」坂井先⽣は語る。⼈が関わり、巡る中で「もの」は⼈に語らい、⼈は空間を⾒つめる。⼈、「もの」、環境。全てが⾃然に巡るような空気感を、鍛鉄を⽤いて坂井直樹は表現を続けている。