Ecological Fiction(生態の物語)
堀貴春は、白磁を用いた表現で虫をモチーフに空想にあり得うる虫の作品を制作します。
虫の意味不明な凄さ、特にその構造に惹かれるという彼の美の琴線から作られるモノトーンで清潔な白磁の昆虫。それは、単なる虫の形をしたオブジェではなく、長年の虫の飼育・観察視点から作り上げられる生態研究的知見が表現されています。
幼い頃より、生き物が好きだった堀は、祖父のいた環境から現在の制作の礎がつくられました。
「都会で育つ中で、普段出会えない生き物が、夏休みに祖父の実家に行くと間近で出会えたのです。」 少年の豊かな感性を刺激したのは、都会と田舎の環境の違いや、そこで出会う不思議との出会いでした。この未知へ の好奇心は、現在の堀の制作に多大な影響を与えています。彼の作り出す虫は、実際に存在はしない空想の未来の姿 として表れます。
長い年月虫と関わり、実際に飼育していく中で、堀は二つの視点が洗練されていきました。一つ目は、虫の生態に 向けた視点、二つ目は、個々の虫が持つ特性への視点です。この二つに堀の豊かな想像力が合わさり表現された、 「Ecological Fiction」としての作品と言えます。
本展で、紹介する三つのシリーズ。Fiction(空想)、Mimicry(擬態)、Abstraction(抽象)から堀の制作の哲学を紹介します。
Fiction(空想)では、具象化された想像の昆虫が表現されています。例えば、足に円環状の空洞が存在するカマキリの作品は、近未来、飛翔性の被捕食生物が減少した世界で捕食効率を上げるために放電能力を持った存在として作られています。
実際には存在しないけれども、現在の生態をもとに空想の世界で存在する生態系を表現した一種実験的な作品のシリーズになります。
Mimicry(擬態)では、人が絶滅した世界で、人が捨てた陶磁器などに擬態した昆虫が表現されています。虫の構造的特性を意識しながらも使えるものとして、彼のものつくりの基礎がある作品となります。
Abstraction(抽象)では、特に二つ目の個々の虫が持つ特性への視点と堀の美学が表現されています。抽象的に 表現された作品には、それぞれ、モチーフとなる虫がいます。飛行速度の速いカナブンの特性をイメージ化した Rebooting-001 や、堀の美の琴線に触れる甲虫の外骨格の端正に収まる美しさを表現したRebooting-010 など、そ れぞれの虫の特性から着想を経て、堀の構造への美的視点により表現され、虫のネガティブイメージが払拭された洗 練された作品となります。
虫、白磁、想像、未来、生態、用の美、など様々なものが掛け合わされ表現されていく作品の数々。虫の不思議が生 み出す美しさが、堀の想像力と創造性を通して新しい「Ecological Fiction(生態の物語)」として語られています。
◼︎Fiction(空想)|ELEC Actuate Mantis
◼︎ Mimicry(擬態)|擬碗虫
◼︎ Abstraction(抽象)|Rebooting-010
文・岡村陽平





